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大阪地方裁判所 昭和27年(ツ)24号 決定 1953年2月18日

抗告人 大日商事株式会社

右代表者 川岸清

主文

原決定を取消す。

理由

本件抗告の要旨は

抗告人は近時業務繁忙を極め、その代表取締役川岸清は昭和二七年六月一九日より沼津、東京方面に出張し、同年七月二日帰阪、同月二一日再び同方面に出張し同年八月二日帰阪し、更に同月六日同方面に出張して同月一七日帰阪出社したのであるが、たまたまその不在中に頭書調停事件につき大阪簡易裁判所よりの呼出があつた模様で、会社内の人手不足のため右期間中代表者たる右川岸に右呼出があつた事の連絡がなく、従つて出頭すべき代表者川岸に於ては全然これを知らず、この度頭書の如き過料決定の送達を受けて初めてこれを知つた次第であるから、かかるやむを得ない不出頭に対し過料決定がなされたのは不当である。

というのである。

抗告人を当事者とする頭書調停事件につき、抗告人を代表する代表取締役川岸清が昭和二七年六月二六日、同年七月二三日及び同年八月一一日のいずれも午前一〇時の各調停期日に大阪簡易裁判所に出頭すべき旨の適式の呼出を受けながら、右各期日に出頭しなかつたため、同裁判所が同年八月二七日抗告人を過料金三、〇〇〇円に処する旨の決定をなし、その正本が同二九日抗告人に送達せられたことは本件記録及び抗告人代表者本人審訊の結果により明らかである。そこで考えるに民事調停法第三四条が定める過料の制裁は出頭能力ある者に対し間接強制を加えて出頭を促し、その出頭を俟つて調停手続を順調に進行し、よつて民事上の紛争事件の解決に資せんとする一種の秩序罰であると解せられるから、出頭能力ある自然人を対象としているのであつて、機関たる自然人によつて代表せられている法人の如きはその対象とされていないものといわなければならない。従つて法人が調停の当事者となつているためその代表者を呼び出したが、正当な事由がなく出頭しなかつたような場合には、その代表者を過料に処すべきであつて、自ら出頭することができない法人に同条の制裁を課することは許されないところである。

しかるに本件では法人たる抗告人に対し前記の如き過料の決定をしているのであるから、原決定はその余の点について判断する迄もなくこの点に於て失当である。よつてこれを取り消すべきものとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 乾久治 裁判官 前田覚郎 安井章)

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